先月のある日、家に帰ったら娘の写真が回覧板に入っているチラシから私の方を覗いていました。
娘は新城市若者議会の委員の1人です。新城市の「若者議会」は、年に一度の形式的なものではなく、意見交流会のような「若者会議」でもなく、予算が市から与えられて、年間を通じて定期的に活動をし、考え出した政策やアイデアを実行に移すことのできる、全国で初めての試みです。そういうこともあって、今全国からかなりの注目を集めています。
そこで、「主権者教育普及実践事業」の一貫として、若者議会のシンポジウムが新城市で今度の土曜日、2017年2月11日に持たれることになりました。昔から人前で発言をすることに積極的な娘ですが、まだ高校1年生なのに、パネリストの1人として出ることになりました。そこでチラシから彼女の笑顔が私の方を覗いていたのです。
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新城市若者議会が始まったきっかけは、世界ニューキャッスルアライアンスにあります。新城市は、1998年から、世界中にある「ニューキャッスル」という名前がつく都市との交流があって、2年毎にどこかのニューキャッスルで会議がもたれています。2008年からそれが市民レベルでの交流となり、その年に青少年の部も発足されました。2012年に日本の新城市から、数人の若者がイギリスのニューキャッスル・アポン・タインに行き、その街のYouth Council、若者議会を目の当たりにしました。そしてそこの若者たちが持っている、自分の市に対する熱意と関心に心を打たれて、このままだったら新城市はヤバイよ!私たちの、若者の想いとニーズ、新城市の将来に関する私たちの意見をなんとかして市政に届ける方法はないか?!と、悩み、そして行動しました。市長や市議会との話し合いを重ね、ユースの会、若者政策ワーキングという、二つの中間段階を経て、2014年に「新城市若者条例」と「新城市若者議会条例」(それぞれ平成26年新城市条例第56号、第57号)が公布され、2015年4月1日より施行されました。条例化することによって、新城市の若者議会を市長が変わっても残すことができるようになりました。
若者議会は、16才(高校1年生)から29才までの委員を4月中に20名募集し、5月に議長、副議長を選び、準備をします。そして5月に委員一人一人が新城市の議場での第1回の議会で市長に委嘱されて、委員が市長と新城市議会議長や教育長、市役所の各部長の前で所信表明をします。毎年、若者の意見や洞察が求められている課題が市から提出され、その後チームに分かれて、多くの分科会、ミーティング、ワークショップ、インタビューや視察を重ねて、自分たちが与えられている課題のためにどのような政策ができるか、どのようにその政策を実現に近づけることができるかを考えたり、話し合ったりします。その際に市民の税金を使うことになりますので、それは責任重大な決断です。8月に議場で中間報告をし、それによって政策が再検討されたりします。そして11月に市長に答申をします。自分たちが作り上げてきた政策や活動が、次年度に実施されることになりますので、12月から3月までは、継続的なものならば次期により簡単に引き継ぎできるように、次年度に実際に実施されるものならばそれを仕上げて、実行に移すことができるところまで持っていきます。

新城市若者議会の様子 (写真はメンターの1人である鈴木孝浩さんのブログ、 takahirosuzuki.com より)
期間誌「Voters」(明るい選挙推進協会発行)2016年10月号に載っている、新城市選挙管理委員会著作の報告によりますと、
活動をサポートするメンター制度があり、市職員と若者政策ワーキング・若者議会経験者の中で希望する者が担っている。委員の内訳は、第1期は、男性7人、女性13人で、高校生10人、大学生4人、専門学校生1人、社会人5人。メンターには市民5人、職員12人。第2期は男性8人、女性12人で、高校生12人、大学生4人、社会人4人。メンターは市民7人、職員8人。第2期は市外の若者も力を発揮できる仕組みとして、4人が市外委員として参加した。
若者議会の活動は頻繁に市の広報に掲載されます。
第1期は6チームで活動されていました。それぞれの事業とは、
① 情報共有スペース設立事業(街なかにある利用度の低い公の建物の利用方法の見直し)、
② おしゃべりチケット事業(若者と高齢者との交流促進)、
③ 若者防災意識向上事業(意識調査や炊き出しの実施)、
④ 若者議会特化型PR事業(新城市の若者議会の全国に向けてのPR)
⑤ ふるさと情報館リノベーション事業(最近一般の利用が減ったけれども勉強に使う若者が増えている図書館の利用方法の見直し)、
⑥ いきいき健康づくり事業(バブルサッカーというニュースポーツの実施)
でした。
第2期(現在)は4チームに分かれて活動しています。元々の活動はこの通りです:
① 図書館リノベーション事業(図書館チーム:名称=キューピー)
② ハッピーコミュニティ応援事業(まちなみ情報センターチーム:名称=ハッピーターン)
③ 若者議会PR事業(広報PRチーム:名称=新城勝舞隊)
④ もっくる新城 x 若者議会(課題から政策チーム:名称=SPRING)
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私は、娘が参加しているということもありますが、新城市の行っている事業や若者の参加にとても興味がありますので、所信表示、中間報告、答申と、今まで議場で行われた会議にはすべて傍聴に行きました。
図書館リノベーションチームは、昨年度からの継続ですが、なかなかやります。様々な他市の視察や、利用者の観察や、利用者へのアンケートを元に、図書館の総合的なリフォームを提案しています。ハードウェア(ソファやテーブルなど)の購入などが伴いますので、今年度の若者議会の予算の半分以上の額を占めています。「世代のリレーができるまち」をつくるために、若者のみにフォーカスを当てずに、適正な税金の利用を考えようとしているので、本当に責任重大です。
まちなみ情報センターチームも、昨年度からの継続ですが、どのようにして、今まで人々が使い慣れていない市の施設の利用度を増やすか、若者なりに工夫をこらして、奮闘しています。
PR事業も、昨年度からの継続ですが、これは難易度がなかなか高くて・・・。昨年度は若者議会の本物の委員(モデルではなく)と、自作のスタジオを使って、とてもステキなポスタ-シリーズができて、至るところで見られるようになりました。新城市だけではなく、豊川市、豊橋市、電車の中、そして名古屋市内でも見たことがあります。このできを上回るのは難しいだろうなぁ~と思いますが、今年も再びポスターの制作や、ブログやSNSを使ったPRのために、広報PRチームだけではなく、若者議会の他のメンバーのためにもワークショップなどを開いたりしています。
課題から政策チームですが、元々は「もっくる新城」(2015年3月に開業した新城の道の駅。2016年2月に開通した新東名新城インターのすぐ側にあります)を拠点に、市内外から様々な人に新城市のことを知って欲しい、来て欲しいという考えから、政策検討をしてきました。けれども、中間報告の後からは、少し方向を変えて、新しく考えた2本立ての政策は、若者と女性にもっと新城市と奥三河の魅力を知ってもらう観光プラン作りと、教育を通してもっと若者の政治に対する関心を高めることになりました。
この「もっくる、もっとくる事業」から「若者・女性観光&シチズンシップ教育」に方向転換した背景には、娘の度胸があります。正直言って、街のややはずれにある、市内からの公共交通機関の便が悪いもっくるを、新城市内の特に運転ができない若者にもっと使ってもらうための政策を練ること自体にはとても困難があります。しかももっくるの営業時間外に何かができたりとかだったらまだしも、そういうわけでもなく・・・娘と何回も、分科会の前にアイデアを分かち合ったりしましたが、かなり大変そうでした。
そうこうしているうちに、中間報告の日になりました。それぞれのチームが発表をして、このまま政策を進めていいと思うかどうか、是なら青カード、否なら赤カードを委員が出します。図書館リノベーション、まちなみ情報センター、広報PRについては、それぞれ全部青カードが出ました。でも、もっくるの時だけ、たった一枚の赤カードが出されました。それが、娘でした。
娘は後から「このまま続けてもまったく意味のあるものになりそうになかったから・・・」と言っていました。私もそう思っていましたが、不本意でも皆と同じ行動を取ることに甘んずることなく、自分の考えていることのためにしっかりと立ち上がった娘は、麗しく見えました。みんなの反応はどうなのかと、ヒヤヒヤしましたが・・・!
結果的には、将来の新城市により大きな影響を与え、奥三河により良い貢献ができそうな政策を考え出すことができて、本当によかったと思っています。
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その後、11月11日に六本木ヒルズでもたれた第11回マニフェスト大賞授賞式において、新城市の若者議会が「シチズンシップ推進」の部門で最優秀賞を受賞することができました。地方自治に貢献している団体や個人に贈られる賞ですが、このことが刺激になって、日本でより多くの若者議会や、別な形ではあったとしても、若者の声が市政・行政に届くような制度がたくさん生まれてくるといいと思います。
パッシブ(受動的)なシチズン(市民・県民・国民)から「アクティブ」(行動的)なシチズンになることによって、市政・行政を知って、それを自分たちの力で変えることができることを知った若者が増えることを期待します。
上記で述べたVotersの記事ですごくよくまとめてありましたので、私のことばではありませんが、土曜日のシンポジウムに期待をよせながら、新城市若者議会を垣間見られるように、次の引用をもってこのポストを閉じたいと思います。
委員は分科会を通して成長した。年上が多い中で、初めは自分の意見を発言できなかった高校生が、分科会を重ねていく中で、本気で政策を考えるメンバーの1人として、自らの思いについて積極的に発言することができるようになっていった。
みんなが納めた税金の使い道を決めることは、とても大きなプレッシャーがのしかかった。若者議会を通して知る政治の役割。税金の使いみちを決めるのは誰か。「だから選挙が必要なんだ」とある委員は感じた。
今夏の参院選で有権者となった委員に参院選の投票の意思を聞くと、全員が「投票に行きたい」と即答した。このことから、若者議会は「地域につながり、地域のことを見つめ、地域の将来を展望しながら政治や社会に興味をもつことができる、参加型の主権者教育」となっているといえるだろう。
若者議会のような制度が全国で実践され、より多くの若者が政治や社会に興味をもち、投票「質」と「率」を向上させていくことができれば、若者の政治離れにも歯止めがかかり、投票先をしっかりと考え、投票することのできる有権者を育むことができるものと期待する。
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